友だちから聞いた話。主人公は友だちの友だちのお母さんだ。mojoは話には聞いていたけど、直接は知らない。
その母上は90代にして、とある俳優(そうとう古くすでに故人である)のファンサイトを開設したり、定期的に新宿あたりに繰り出しては飲み歩いたりしていた。
年齢からすると、若い頃にはモダンガールなんて呼ばれていたのだろうか。
その母上から娘に電話が入る。好きなことをしたいからと、この歳にして同居を拒み、一人暮らしをしていた母からの電話。なにかしら…と思うと、
「私、ちょっと具合が悪いから入院するわよ。ううん、いいの、準備はもう済んだの。これから自分で救急車を呼ぶんだから」
娘はこういう母だとは知りつつも困惑する。すぐに行くからと。ところがそれをさえぎり母が言ったのは突拍子もない内容。
「あなたに御願いがあるの。借りてきたビデオの返却期限があさってだから、返しておいてね。病院へくるのはそれからでいいわ」
なんだか「旅行に行くから、ちょっと頼みごとを聞いてくれない?」とでも言うようにサラリと告げる。
言われたように娘は母の家に行き、きっちりとわかるように用意されていたビデオテープを手に持ち、ビデオ屋さんに返却してから、病院へ向かったのだそうだ。
ところが娘がレンタルビデオ店で返却手続きをとっていたころ、母は病院へ行く途中の救急車の中で容態が急変し、そのままICUへ入った。その直前の娘への淡々とした電話が信じられないほどの急変。
その後、本当に危ないところまで容態は悪化したが一度は持ち直し、結局3週間ほど別れの準備期間を家族に与え、それから旅立った。
「最後の頼みごとが、まさかレンタルビデオの返却だなんて…なんだかおかしい。母らしいけど」
娘は持ち主のいなくなったレンタルビデオの会員証を手の中で何度もひっくり返しながら、苦笑した。
コメント
こういうペーソス溢れる話を聞くと、ついホロッとするお年頃です。死は日常の延長線上でしかないという境地なのでしょうかね。素敵な人です。
△KHOOさん
年を重ねたら自分もこうなれるのだろうか、そんなことを考えてしまいますね。