さよなら父ちゃん33 別れの日

午前2時半、父ちゃんが何か喋り始めたのでベッドサイドへ。

「人生は面白いねえ。お父さんの人生はいい人生だったよ」

重く言うでもなく、たんたんと語り始めた。

「でも、悲しいけれど人生には限りがあるんでしょう? だったら、お父さんはそれを今、理解したよ。お父さんの人生は、もう終末に入ったようだ。ありがとうね」

僕とパートナーは黙って聞いていた。信じられないようなセリフだったけど、父ちゃんは誇張でもなく、ハッキリとそう言った。その父ちゃんが娘に聞く。

「お母さんは?」
「お母さんは天国でお父さんの来るのを待ってるよ」

そう答えると、父ちゃんは「うん」と言った。さらに娘が言葉をつなぐ。

「真っ直ぐにお母さんのところへ行くんだよ」

ゆっくりとうなずく父ちゃん。みんなで手を握り、三人でありがとうを繰り返す。しばらくして、父ちゃんはなんとも言えないトーンでこう言った。

「じゃあ、寝るさ」

その後、さらに息が荒くなり、何を言っているのかわからないこともあった。また、尿管に触ろうとしたり、身の置き所がない感じ。

辛そうだったので夜中ではあったが、いつでもいいと言われていた言葉に甘えて病院に相談。寝ていた先生が電話口に出てアドバイスをしてくれた。

結局、先日処方されていた少しきつめの睡眠剤を使うことになった。

坐薬をなんとか入れて30分ほど。先生の言った通り、薬が効き始めたようで父ちゃんはいったん寝た。

しかし午前3時半ぐらいから、父ちゃんが再び目を開け覚醒しているような感じ。

息遣いが非常に荒い。触れてみると手は冷たく、足も先の方が冷たい。

声をかけると意識はあるみたい。
「わかる? 」と聞くと頷いた。

今度は「苦しいの? 」と聞いてみた。頷いたように見えたが、どうかわからない。

明らかに苦しそうに見えるので不安になり訪問看護師の緊急連絡先に電話するも、夜中だからかややつれない返事。「明日朝先生に診てもらいましょう」と言う。

それで不安だったが、僕らも寝ることにした。

午前9時過ぎ、寝ているとパートナーが部屋に来て「お父さんが……」と言った。察して居間に行く。

父ちゃんは少し口を開いて横たわっていた。顔や手足を触ると冷たい。でも首や背中はまだ温かい。

「お父さん‼︎」
まだかなり温かかったので、ひょっとして……と思い、何度か呼びかけてみたり、腕や首で脈を確かめてみたが、やはりダメだった。

病院に連絡して、そのことを伝える。午前10時、訪問看護師がきてエンゼルケアをほどこす。

訪問看護師に遅れること20分、先生がきて死亡確認。死亡診断書を葬儀屋さんに病院まで取りにくるように言ってくれとのこと。

先生は11時過ぎに帰り、看護師が身体をきれいに拭いてくれ、用意してあった洋服を着せる。

いつも履いていたジーンズにチェックの半袖シャツ。ジーンズは生前「天国に行ったら向こうで妻に見せて、こんなのを履くようになったんだよ、と驚かせるんだ」と言っていたもの。よく似合ってる。

12時前、葬儀屋さんに電話。納棺は今日、葬儀は明日に決定した。

それからすぐに買い物へ。今日、教会に父ちゃんを連れて行く時と明日の葬儀で着るシャツがないので、あわてて買ってきたのだ。

午後4時間半、葬儀屋さんが来て出発。車に父ちゃんを載せ、片道1時間弱の道のりを行く。

5時過ぎ、教会で納棺式。牧師とmojoとパートナーの3人だけで父ちゃんを見守る。心のこもったいい祈りをしてもらい、そのあとで葬儀屋と打ち合わせ。とにかく小さな葬儀にしてもらうことだけを決め、教会を後にする。

途中、お腹が空いたので蕎麦を食べて帰る。

帰宅したのは午後9時半。さすがにどっぷりと疲れて、黙って2人でお茶を飲む。明日は父ちゃんを送る。

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