さよなら父ちゃん2 個室へ避難する

救急車で運ばれていくつかの検査をこなした父ちゃんは、脱水症状と診断されて入院することになった。

実はそのとき医師とは、もうあまりきつい検査や治療はしない方向でいきたいという話し合いをした。

膀胱ガンの転移が見られた時点でそれは決めていたし、先日のクリニックでも胃ろうなどはしないと宣言していた。

つまり、苦しかったり痛かったりした場合は、それを取り除いてあげたいが、無理な延命などはやめておこうということだ。

救急で対応してくれた医師もそのことを汲んでくれ、がん性のものか、あるいは他に何かこうなった原因があるかもしれないが、苦しい検査などはやめておきましょうと言った。

「ただ、体がどんな状態なのか、どう対処していくのがベストなのか判断するためにも最低限のレントゲンとか血液検査ぐらいはしておきましょう」

そう言われ納得した。

調べてみると、父ちゃんは極度の脱水状態だった。口からは吐いてしまって無理なので、点滴で水分を入れる。

あれっ? でも、前日見せた内科医は点滴は意味がないといってしてくれなかったのではないか? なぜなんだろう?

いずれにしろ、水分が体の中に吸収されていくのを確認してホッとする。

ところが、問題が発生。検査を終えて入ったのはナースステーションの横にある大部屋だったのだが、ここに自殺未遂でかつぎこまれたらしい若い女性がいた。

彼女が泣いたり叫んだりするものだから、こちらも気が気ではない。環境が変わるだけでも老人には影響がある。入院したとたんにボケたなんていう話はよく聞く。

案の定、父ちゃんも不安そうな顔をして、あれは娘の声じゃないよねと言い出す始末。その娘が看護師と入院についての打ち合わせをしている間、父ちゃんはずっと不安がっていた。

看護師が来ても自殺未遂女性のかんしゃくはおさまらず、このままでは悪影響しかないと判断して、お金は痛いけど個室へ移ることにした。

しかし、その部屋もなかなか用意してもらえず、部屋に入ったのは夜9時過ぎてから。それでも1日分の個室料金を払わなければならないと聞いてガックリ。

でも、個室に移り父ちゃんも落ち着いてくれたようだ。点滴につながれてはいるけれど、家でグッタリしていた時よりはずっとマシに見える。

でも、僕らが帰ろうとしたら、父ちゃんが寂しそうに、「いつまでここにいるの? 早く家に帰りたい……」と言った。

とにかく1日ガマンして、と説得する。「ゴメンね。すぐに帰れるようにするから」と言うと、もう一度「早く家に帰りたいと」言った。

うん、早く帰ろう。父ちゃんに言う。

後ろ髪を引かれながらドアをそっとしめる。

コメント

#userlocal kokokara #userlocal kokomade